国連人道問題調整事務所(OCHA)の3月のパレスチナでの人道問題報告

国連人道問題調整事務所(OCHA)oPt人道報告書(2019年3月)/2019年4月15日発表

 

主要な出来事

  • 2019年3月30日、『帰還のための大行進』は継続し1年が過ぎた。
  • 抗議行動で負傷したパレスチナの人びとは、ガザの外で治療するのに大きな障害が横たわっている。
  • 2019年第一四半期、イスラエルによる建造物破壊の件数が上昇している。
  • C地区では、イスラエルが水関連のインフラに対する制限・管理しているため、パレスチナの人びとが直接影響を受けている。

 

3月の数字

  • パレスチナ人の死者18人、パレスチナ人の負傷者2552人(ともに抗争中)
  • イスラエル人の死者 5人、イスラエル人の負傷者  45人(ともに抗争中)
  • 西岸における建造物破壊45件
  • 西岸における住民追放 77人

 

概 要

3月25日、ガザからイスラエル中央部にロケット弾が発射され、家屋に深刻な被害を与え、7人のイスラエル人が負傷した。2014年以来ガザ地区イスラエル南部で最も深刻な敵対行為のひとつを目撃することになった。この事件の後、イスラエル空軍はガザ全域で複数の場所を攻撃し、2家族を負傷させ16家族が住む家を失いました。一方、パレスチナ武装勢力イスラエル南部に向けて数十の発射体を放ち被害をもたらしました。イスラエル当局はまた、緊急の人道的な場合以外の移動を制限し、海岸沿いのすべての漁業を禁止して、ケレム・シャロームとエレツ検問所を閉鎖した。3月27日以降は、敵対行為は相対的に落ち着いた状態が続いています。

2019年3月30日、パレスチナ人の帰還権とイスラエルによるガザ封鎖の解除を求める『帰還のための大行進the“Great March of Return“(GMR)』は開始から1年目を迎えました。そのため、イスラエルとガザとの境界フェンスに沿って大規模なデモが行われました。ガザの保健省とパレスチナ赤新月社(PRCS)によると、その抗議活動の中で、17歳のパレスチナ人男子2人を含む3人が死亡し、1,125人が負傷した。負傷者のうち82人が実弾によるものである。その際負傷者した4人が4月4日にその傷がもとで死亡しました。イスラエル当局は、3月30日の抗議行動に対する明白な制圧行動の後、3月31日と4月1日にはガザの検問所を再開し、ガザ南部では漁場許可区域を海岸から15海里まで拡大しました。その他の地域ではその拡大は6~12海里に制限されたままです。

『帰還の大行進』の開始から2019年3月31日までの間に、43人の子供を含む199人のパレスチナ人がイスラエル軍によって殺害され、30,300人のパレスチナ人が負傷(そのうち25%が実弾によるもの)しました。フェンスの向こうにいるイスラエル兵士にとって、パレスチナの非暴力の抗議者たちが差し迫った殺傷の脅威を与える状況でないにもかかわらず、イスラエル軍が過剰な武力行使をし、抗議者が無防備であったことが原因で、このように多くのパレスチナの人びとが殺害され負傷させられたのです。とりわけ子供たちがそうであった。

3月18日、国連人権理事会によって任命された独立した国際調査委員会は、oPtでの抗議行動について、2018年3月30日から12月31日までの189人のパレスチナ人のデモ関連死亡者全員を調査し、さらに700人以上の負傷者については追跡調査し、その最終報告を発表しました。調査委員会は、二つの事件を除いて、抗議者に対するイスラエル軍による実弾の使用は違法であると信じる合理的な根拠を見つけました。

ガザにける健康部門の能力は、すでに資金不足、長期にわたるイスラエルの封鎖、パレスチナ内の政治的な分裂、慢性的なエネルギー危機により、その基盤が弱体化していたうえに、さらにこの『帰還の大行進』で外傷者の数が多くなったことで、必要不可欠な医療サービスを提供するうえで深刻な影響を受けています。そのため、人道支援団体は、緊急な外傷治療ポイントの調整と支援、外科チームの配置、医薬品の特別出荷、opt人道基金および中央緊急対応基金を通じた資金の配分など、緊急救命医療の提供とその体制支援を優先しました。

ガザのパレスチナの人びとは、すでに強度の精神的な苦痛を経験しており、『帰還の大行進』の抗議行動の結果、推定10,420人の人びとが深刻な精神衛生上の問題を抱え、41,678人の人びとが軽度から中程度の問題を抱えることになっています。人道支援協力者は、精神保健および心理社会的支援サービス(MHPSS)のサービス提供者に子供たちを紹介すること、心的外傷事件に遭遇し影響を受けた住民が相談でき、長期にわたる精神疾患を予防するのを助けるために、そのようなサービスを地域社会で利用できるように強化することに対処しました。

エルサレムを含む西岸地区では、2019年第1四半期に、イスラエル発行の許可証がないという理由で、住宅、生活関連施設や基本的なインフラの破壊が続きました。過去2年間よりも高い割合でした。これらの破壊は、住民追放だけでなく、水不足に苦しむコミュニティで水への接続と井戸が破壊されたことから、さらに大きな影響を与えました。西岸全域では、水供給網が欠如しイスラエル当局から水供給施設を建設する許可を得ることが困難であるため、その影響は深刻です。この報告書の別の記事で、2月に脆弱な三つの地域で起こったイスラエル当局による水道管の破壊と没収について焦点を当てています。

 

焦 点

西岸地区での建造物破壊は水への接続を阻害している

2019年第1四半期、破壊件数が増加

 

エルサレムを含む西岸地区全体では、イスラエル発行の許可証がないという理由で、住宅、生活関連施設や基本的なインフラの破壊が続いています。2019年の最初の3ヶ月間に、西岸地区で合計136件のパレスチナ人の建造物が破壊され、そのうち48件が東エルサレム、88件がC地区にあり、97人の子供と57人の女性を含む218人が追放されました。

破壊された建造物の内訳は、住宅42%、生活関連の建造物38%、そして水、衛生関連(洗面、入浴、トイレ、


台所、洗濯)の建造物7%でした。月平均では、2019年第1四半期は過去2年間よりも高い件数を記録しました。それでもOCHAがイスラエルによる建造物破壊の監視を2009年に開始してから最大数を記録した2016年をかなり下回っています(下の表を参照)。

追放された人びとに加えて、今年の建造物破壊は25,000人以上の人びとに影響を及ぼしました。その主要なもの

は、2月に行われた5つ事件で、水への接続と井戸が破壊されたことによって影響を受けました。最も深刻な事件は、2月17日、イスラエル当局が長さ750メートルにわたる水道管を破壊したものです。それは、ナブルス地区にあるベイト・フリーク村とベイト・ダジャン村に水を供給する施設の一部でした。二つの村で推定18,000人の住民全員が影響を受けました。さらにイスラエル当局は、2月13日と15日に行われた事件で、資金提供によって付設された2ヵ所の水道管を破損または没収しました。ヘブロン地区南部にあるマッサフェル・ヤッタ地域では、長さ1.4キロにわたる水道管で、12の共同体のうち約1,300人が影響を受けています。エルサレム地区にあるワディ・アブ・ヒンディ地域では長さ2キロにわたる水道管で、ベドウィンの共同体約320人が影響を受けました。

2月には、また、エルサレム地区にあるアル・ハライレフとミハマスで、資金提供された井戸が破壊され、2つの共同体30人の生活が影響を受けました。影響を受けたすべての共同体は

、西岸全域の多くの村と同じように水供給網が欠如しイスラエル当局から水供給施設を建設する許可を得ることが困難であるため、水不足と水への接続が不十分で苦しんでいます。特に夏季には深刻です。

エルサレムを含む西岸全域で、多くのパレスチナ人は威圧的な環境を強いられていますが、建造物破壊はその一政策にすぎません。建造物破壊は、地域移転計画の推進、天然資源への接続に対する制限  基本的で公共的なサービス基盤の否定、安全な住居の不足など、他の政策と組み合わせて、パレスチナの住民への圧力と強制移住の危険を生みだしています。

エルサレムでは、パレスチナ人のための建設区画は東エルサレム全体の13%しか許されていない。そのほとんどの区画には、すでに建物が建てられています。東エルサレムにおける建造物破壊は、2019年の第1四半期には2018年と同じぐらいの件数で継続され、月平均16件でした。

エルサレムおよびC地区

では、イスラエルパレスチナの人びとに対して計画自体を制限した体制を構築しており、パレスチナの人びとが建築許可を取得することは事実上不可能です。それは、パレスチナの人びとが快適な住居やインフラおよび生活を発達させるのを妨げています。

C地区に住む約27万5000人のパレスチナのびと人は、水や衛生関連など、水関連のインフラをイスラエルによって制限・管理されているために、直接影響を受けています。WHOが勧告している1日1人当たり100リットルに対し、約95,000人の人びとが1日1人当たり50リットルにも満たない水しか使えていないのです。さらに83,000人以上の人びとが質の悪い飲料水を供給されているか、高価で公的に管理されていない水を購入せざるをえません。

 

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破壊された建造物

ベイト・フリーク村とベイト・ダジャン村の場合

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アワド・ハナニ評議会議長

約18,000人の住民が居住するベイト・ダジャン村とベイト・フリーク村は、水と衛生関連への接続が不足している状況が続けています。二つの村は、オスロ協定のもとでB地区に指定されているため、パレスチナ自治政府が住民に水を含む基本的な生活関連サービスを提供しています。しかし、イスラエルが西岸地区の水資源を支配し収奪し続いているため、自治政府は水不足を解消するために西岸地区で水関連事業を策定・実行することは困難です。ベイト・フリーク村のアワド・ハナニ評議会議長は、イスラエル当局が2019年2月17日に水道管を破壊した影響について説明しま

した。その水道管は、二つのコミュニティに水を供給する地域事業の一部を成すものでした。

 「二つの村は二つだけで島のように孤立しています。二つの村は、北と南には入植地が、東には軍事訓練地域、そして西には北にあるエロン・モレ入植地と南にあるイタマル入植地を結ぶ幹線道路に囲まれています。私たちはその幹線道路を使用することが許されていません。2月に影響

を受けた水道網の大部分はB地区で実施され、C地区では1.5キロにも満たない距離に敷設されるはずでした。しかしそのためにはイスラエルの許可が必要で、イスラエルは決して許可しません。」

 「私たちには水源が1か所しかありません。それは二つの村で共有されている井戸(泉)です。近年では、井戸からの揚水能力

が半分以上(時間当たり65から29立方メートル)低下したため、二つの村では水の供給量が少なくなっています。住民は、この不足分を埋めるために、水道水よりも高い価格で、 タンク車の水に頼ることを余儀なくされています。タンク車の水は、水道水が1立方メートル当たり平均価格5NIS(シェ

ケル:イスラエルの貨幣単位)に

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地図1

対し、12NISにもなります。私たちは、特に需要が激しく増加する夏には、遅延やその他の諸々の困難のために、タンク車の水を受け取るために1か月以上待つ必要があります。」

 「生活に必要な十分な量の水を受け取ることは、もっとも基本的な人間的、人道的な権利です。私たちは、私たちが水問題を解決できるように、すべての国際社会および人道団体が私たちを支

え、助けるように呼びかけます。」

 

 マッサフェル・ヤッタの場合

ヘブロン地区南部にあるマッサフェル・ヤッタ地域は、12の共同体によって構成され、イスラエルが1980年代から軍事訓練のための「射撃区域」として指定した地域に位置します。そのためイスラエルは共同体を排除しよう画策してきました。マッサフェル・ヤッタの住民は、強制移住の危険にさら


されています。

季節に応じて、共同体は溜めた雨水とタ

ンク車の水に頼ります。タンク車の水は、住民にとって法外な値段で売られています。彼ら・彼女らの主な収入源は家畜です。家畜の群れは、羊と山羊をあわせて推定25,000頭以上に達します。その家畜の群れが水の約75パーセントを消費しています。

さまざまなNGOが、地域と協力して水不足を解消する

ために配水事業に取り組んできました。2018年10月には、「飢餓

に反対する行動(Action Against Hunger /ACF)」が、占領パレスチナ地域人道基金(HF)からの寄付で、共同体に水を提供するために供給網を建設しました。水供給網は、水をより安くより良い品質で共同体に確保しましたが、2019年2月にイスラエル当局によってパイプが破壊さ

れるまでの3ヶ月


間しか運用できませんでした。

受益者で住民のシッファ・アブ・イラムさんは、次のように述べています。

「私たちは、水を買うのに多くのお金を払っていました。水供給網ができとても安心しました。私たちは、必要なときに水を使い、そして私たちの主な生活の糧である家畜に水をやりました。水供給網がなければ、水の使用を最小限に抑え、いくつかの仕事をおろそかにする必要があります。たとえば、私たちは週に一度だけ衣類を洗いますが、水が利用できるときは一日おきに洗濯します。私たちはとても幸せでしたが、今や水供給網は事実上破壊され、私たちはまた苦しめられています。」

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